1|東日本大震災を忘れない。

 2011年3月11日(金曜日)14時46分18秒──。 


 東北地方太平洋沖地震、発生。 

 マグニチュード、9.0。


 観測史上最大の地震が日本を襲った日、わたしは当時所属していた週刊誌の編集部(都内)で次号企画の調べ物をしていた。


 事務机でノートパソコンのディスプレイを眺めているとき、その瞬間はやってきた。


 まるで床が波を打っているようだった。事務机の島ごと左右に動く様子を見て、地震の規模が尋常ではないことを悟った。 






 わたしが被災地に足を向けたのは、災発生から約1カ月経ったころ。取材場所は福島県南相馬市。津波で壊滅的な被害を受けた太平洋沿岸のひとつ。


 津波はすべてを飲み込んでいた。見渡すかぎり、がれき以外はなにもない。人も、動物も、草木も。


 遠くのほうからトラックの通り過ぎる音が聞こえてきた。それで気がついた。この場所には、音もなかった。


 ノイズから解放された世界。無音の地。昼間なのに、暗闇にいるような感覚にとらわれ怖くなった。 






 取材の帰りがけに、ひとりの少女と出会った。少女は津波の被害で倒壊寸前の家屋を見つめていた。


 その家屋は、彼女の生まれ育った場所だった。時間をみつけては、まだ使えるものや思い出の品が残っていないか、家族総出で探しているという。


 壁に赤いスプレーの文字で「コワスナ」と書いてあった。一瞬、少女や南相馬市の未来と重なったような気がした。


 あの日の記憶は、忘れない。 





<備考> 

 今回掲載した3点の写真は、2011年4月22日に福島県南相馬市で当方が撮影したものです。

 これからも続く復興の支援としていまの自分になにができるのか、と考えたとき、あの日の記憶を忘れないことだと思い数年ぶりに掲載させていただきました。

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